『我が名はレギオン』
2008年夏、全身を十五ヶ所に切断された身元不明の少女の遺体が発見され、「神は汝を許したもうた/使徒」と記された署名が添えられていた。それは陸続と続く連続殺人事件の始まりだった。
公演詳細
2009年11月26日~29日
於:ザ・ポケット(中野)
作・演出/野中友博
料金◎前売:¥3,500 当日:¥3,800高校生以下:¥3,000円(紅王国のみで取扱い)
日時指定。一部自由席。前売り、予約優先の当日指定制です。
26日(木) | 27日(金) | 28日(土) | 29日(日) | |
昼の部 | 14:00 | 14:00 | 14:00 | |
夜の部 | 19:00 | 19:00 | 19:00 |
キャスト
PERFORM
阿野伸八・犬塚浩毅・内山正則・遠藤紀子・恩田眞美・かどのまいこ
小林達雄
白石里子(青果鹿)・園部貴一・滝川はる奈
長澤史歩(中央大学第二演劇研究会)
野口聖員・吹上かずき(妄想の劇団)
藤井佳代子(劇団青年座)・本多菊次朗
松永太樹・円谷奈々子・村田貴洋
矢野由布子(中央大学第二演劇研究会)・他
スタッフ
CREW
美術/丸山賢一(青果鹿) 照明/中川隆一 音楽/寺田英一
音響/半田充 衣裳/杉本京加 舞台監督/小野八着・大地洋一
宣伝美術/T・HRN(Picture)・KIRA(Layout)
制作/上野蓉子 制作協力/菊地廣 演出助手/馬渡淳・西みゆき
CO-CREW
在倉恭子・鰍沢ゆき・佐藤由美子・萩谷正人
※
THANKS
青果鹿・ひよこ組・ネオ企画・妄想の劇団・中央大学第二演劇研究会
あとむの会・
K・企画・ポケットスクエア・本多スタジオ
劇作ワークショップ∴DISCIPLINE
演劇ワークショップ∴INDISCIPLINE・P-BOX
殺人についての問い
「人は何故人を殺してはいけないのか?」或いは「何故人は人を殺すのか?」ということが、ここ数年、私の最大の関心事であった。勿論、法的にも倫理的にも、人は人を殺してはいけないと云うことは、大げさに言えば人類の一つの共通認識として共有されているとは思う。だがひとたび「何故?」という根源的な問いを発すれば、その答えは袋小路に迷い込む。凶悪な犯罪が発生すれば、人々は犯人を死刑にしろと口にするし、北朝鮮から日本を守る為には憲法を改正して戦争が出来るようにするべきだという声も高まっている。人は「人を殺してはいけない」と言うその言葉の裏で「場合によっては人を殺すべきである」とも言っているのだ。 二〇〇七年の初頭、『渋谷区短大生遺体切断事件』が発生し、兄が妹を殺してバラバラにした事件としてセンセーショナルな報道が続いた。当時私は、大化改新を背景にした古代史劇の戯曲を書く準備に没頭していたが、この事件についてはできる限り記事を集め、その真実を知りたいと、続報を細かくチェックしていた。初期報道で、被害者である妹が短大に通う傍ら、女優業をやっており、加害者である兄の動機が「私には女優になる夢があるけど、お兄ちゃんにはないね」と言われたことに立腹した為だという報道が気になったからだ。たかだかVシネにちょい役で出たり、下北沢で小劇場の舞台に立ったというぐらいで、自分の兄を「夢がない」と詰ってしまう女優とはどんな女優だったのかという関心を持ったのだ。 その後、両親が加害者である兄を庇って、被害者である妹を非難したとも読めるコメントを出したり、公判に伴う精神鑑定などで、加害者には生来のアスペルガー障害があり、事件当時には強迫性障害や解離性障害も発症していたこと、また、被害者にも反抗挑戦性障害という発達障害があった可能性があると指摘され、それらの子供達の障害について、家族は気づいていなかったと言うことも明らかになっていった。この家族にいったい何があったのか、何故兄は妹を殺さねばならなかったのか、その真実についての答えは未だに出ているとは言いがたい。 『我が名はレギオン』は『渋谷区短大生遺体切断事件』を出発点にはしているが、直接にその事件を描いた物ではない。それは「このような殺人者が実際に現れる可能性があるかも知れない」という私の想像力の産物である。私は私なりに「人は何故人を殺すのか?」、「人は何故人を殺してはいけないのか?」という問いを考えてみようとした一つの過程である。勿論、その回答をこの作品が示している訳ではない。もしかするとこの問いとの葛藤は、一生続くのかも知れないと今の私は思っている。 戯曲を書くという過程はまさにその葛藤の軌跡であり、俳優やスタッフ達とこの作品を共有することも、また「何故?」という問いに対する営為である。そして演劇はおそらく、「何故?」の答えではなく、問いその物を発信することしかできないのだとも思う。観客の皆様とも、その「問い」を共有できることを願ってやまない。
紅王∴野中友博
『我が名はレギオン』あらすじ
2008年8月より、都内で断続的に発生していた連続女性切断殺人事件は10月の末になって神奈川県に第四の被害者の遺体発見現場が飛び火したことにより、警察庁により広域重要指定事件に指定された。 新たに再編される捜査本部の特別チームの指揮を執ることになった警視庁の管理官、波川龍警視は久しぶりに帰宅した。波川家は元所轄署署長の娘であった妻・早苗と検察官を目指し大学院で法科学ぶ長男・徹と、法学部を目指して三浪中の次男・裕樹、短大に通う傍ら、芸能活動も行っている末っ子の長女・安由美の五人家族だったが、警察法曹関係の一家の中で、安由美の奔放な性格と行動は浮き上がっていた。安由美の出演したVシネマがR指定のソフト・ポルノだった事を知った母親の早苗は激怒し、一家の中にはギクシャクした空気が流れていた。そして両親達も気づかぬ発達障害を抱えた次男の裕樹は自分の福人格・カヲルとの話に溺れていくのだった。 警視庁では再編された特命第四斑に波川の人選した各部署の刑事達が集まっていた。警察庁のプロファイラー、葛城嶺を中心に事件の洗い直しとプロファイリングが行われた。四つの事件の共通点は、被害者がいずれも若い女性であり、殺害後に遺体が15ヶ所に切断され、「神は汝を許したもうた/使徒」という各国語のメモ書きが残されていることだった。この事から事件は通称「使徒事件」と呼ばれていた。プロファイルの結果、使徒を名乗る犯人が別個に行動する模倣犯を含めた複数の犯人がいること、良家のお嬢様だと思われていた被害者達は、実は援助交際を行っていた可能性が浮かび上がった。特命第四斑は現在も犯行を続ける第二の使徒の犯行を止める為に動き出す。 プロファイラー葛城は、白日夢の中で、守護天使のように寄り添う赤い服の女と、被害者の幻視から三つの伝言を受け取る……「使徒は使徒ではない」、「ハンターは狩り場を離れない」、「彼らは大勢だが孤独」……葛城は夢の意味を追う。 11月半ばに行われた囮捜査による第二の使徒の確保は、上層部の横やりによって失敗する。何者かによってリークされた情報により、操作責任者の波川の家には番記者が群がり、マスコミからの電話がひっきりなしにかかってきていた。そんな中、長女の安由美は、自分が人格障害ではないかという不安から、精神科の受診を母・早苗と長男・徹に相談するが、その願いは母と兄によって一蹴される。次男・裕樹と安由美はお互いを気遣いながらもすれ違っていた。 11月末、ついに不審者として第二の使徒が逮捕された。第二使徒は巧妙に刑事達の尋問をはぐらかし、弄ぶが、その身元は医大生の天宮薫と判明する。ついに対決するプロファイラー葛城と第二使徒天宮。天宮は父の愛人であった第一の被害者、三津浦淳子が使徒を名乗る何者かに殺害されてから、その手口を模倣して四人の女性達を殺害していたのだった。その動機を葛城に看破された天宮は、「俺達は一人ではない。大勢だ」と不敵に言い残す。果たして、天宮の逮捕後に第六の犠牲者の遺体が発見される。再び第一の使徒が動き出したのだ。 12月の下旬、事務所を解雇された安由美は、傷心にうちひしがれていた。やけ酒につきあう兄の裕樹は、センター街で安由美の同級生、美樹と出会った話を告げ、美樹が援助交際をしていることと、それに安由美が関係していることを仄めかす。憤慨して安由美が席を立つと、裕樹の福人格カヲルが囁きかけるのだった……「一番可哀想なのは誰だい、ヒロキ君。彼女を救ってあげるんだ」 12月末、第六の被害者は波川警視の娘、安由美の同級生、牧村美樹であると分かった。更に第一の被害者、三津浦淳子が第二使徒天宮の父親名義で使っていた携帯電話、牧村美樹の携帯電話の通話アクセス記録から、最後の通信相手が波川の次男、裕樹であることが判明し、波川は天宮と接見して第一使徒の人物像を聞き出す。波川は父親として全ての決着をつける事を決意する。 年末の波川家、波川は自分の実家に帰省していた妻の早苗と長男・徹を呼び戻す。予備校の強化合宿に行っている筈の裕樹は一人自室に引き籠もっていた。波川は我が子の裕樹と対面し、聞かねばならないことを問い糺していく。予備校をサボって何をしていたのか、三津浦淳子や牧村美樹とはどんな関係だったのか、そして……裕樹は第一の使徒なのか……? やがて語り出す裕樹の真実は、何処にも姿の見えない、末娘、安由美の運命をも暗示する。大勢の霊、レギオンの魂は果たして救済されるのか……?
野中友博プロフィール
1962年 東京都出身 桐朋演劇科16期卒
1984年 劇団青年座入団 同年退団
1985年 TOTAL ART FOUNDATION [P-BOX]結成
演劇部門「パンドラ劇場」を主宰し、作・ 演出家として89年まで活動 。TVドラマの企画などに参加。
1995年 銀座みゆき館劇場プロデュースによるイプセン作「ヘルゲランの勇者達 」の脚色演 出で演劇復帰。 同年 日本劇作家協会加入
1998年 「化蝶譚」でジャブジャブサーキットのはせひろいち氏らを抑え、第 9回テアトロ 新人戯曲賞受賞。同年 演劇実験室 紅王国設立
1999年 菅谷勇氏 難波圭一氏らの劇団 「TBワンスモア」10月公演「倭王伝」の 台本を担当。
白水社 岸田国氏戯曲賞一次選考にノミネートされる。
2003年 『蛭子の栖』で、二度目の白水社 岸田國士戯曲賞一次選考にノミネート される。
上演記録
第壱召喚式 |
1998. 6月10日〜17日 |
第弐召喚式 |
1998.12月2日〜9日 |
第参召喚式 |
1999.11月17日〜23日 |
第四召喚式 |
2000.9月27日(水)〜10月3日(火) |
第五召喚式 |
2001.6月21日(木)〜6月24日(日) |
第六召喚式 |
2002.2月20日(水)〜2月26日(火) |
第七召喚式 |
2002.9月11日(水)〜9月17日(火) |
補完計画−1 |
2003.5月16日(金)〜5月18日(日) |
第八召喚式 |
2003.10月22日〜28日 |
補完計画−2 |
2004.6月23日〜27日 |
第九召喚式 |
2004.10月27日〜11月3日 |
第拾召喚式 |
2005.9月28日〜10月4日 |
第拾壱召喚式 |
2006年3月1日(水)〜5日(日) |