<梗概> 
      今回の「安達原」は、34人の邦楽界の粋を集めた壮大な演奏陣と、黒人ダンサー4人とスペイン人ダンサー1人、そして長嶺ヤス子と、異色の編成で行います。  
      能とも歌舞伎とも違う、新しい物語の“安達原”をお楽しみ頂きます。  
くつがえすことの出来ない運命を背負った女の悲しみは  
        安達原のすすき野に重く沈み  
        女の妄想と憤怒は  
        溶け出した真っ赤な溶岩(マグマ)となって爆発する。  
      陸奥の闇にうたう子守唄  
        青い血 だんだらねんころり  
        赤い血 だんだらねんころり  
        朽ち果てた鎮守の森に  
        忍び寄る衣擦れの音  
        安達原の闇を裂く  
      
       子守唄が聞こえる・・・。一人の若妻が幼い娘に歌っている。  
        ここは都。女は夫と娘とともに幸せな日々を過ごしていた。  
        ところが、ある日、使える貴人に命ぜられ“不老不死の妙薬”という胎児の肝を得るために、夫と娘に形見を渡し、旅へ出る。  
      しかし、なかなか妙薬を求め得ず、いつしか女は磊落(らいらく)し、山に籠る身となる。  
       月日は巡り、女の家に若い孕み女が一夜の宿を乞うて訪ねてくる。  
        若い女が眠ったところを襲い、胎児の肝を得ようとする。ところが若い女を殺めた刹那、その懐から、嘗て自分が娘に形見分けした品が出て来て、殺めたのは実の娘と分かる。  
        女は悶絶し、ついには鬼女となってしまう。  
      その後、家を訪(おと)なう旅人たちを次々に食い殺していくのだった。  
       ある晩のこと、女の家を一人の旅人が訪れる。女はいつものように殺そうとするが、女の磊落を哀れみ、心を通わせてくる旅人に惹かれ、契りを交わしてしまう。  
        やがて二人は夫婦となり、女は子を孕む。  
        家には夫さえ入れぬ女の寝所があった。  
        ある日、女はいつも通り「留守中、決して私の寝所を覘かないで」と言い残し、薪を取りに出る。興味を押さえきれなくなった夫が部屋に入ると、そこには大量の骨が積み上げられていた。夫は「黒塚に住むという鬼はこの女であったか」と驚愕と恐怖を覚え、家から逃げ出す。  
         
       正体を知られたと悟った女(鬼女)は絶望のなか、自らの腹を裂いて孕んだ子を引き出し、胸に抱き、静かに子守唄を歌いながら、その数奇な運命を背負った命を閉じる。   |