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長嶺ヤス子の
〜双頭の鷲〜

ジャン・コクトー 原作

70年代、本格的なフラメンコ・ダンサーとして一世を風靡、その後、フラメンコを離れ、幅広いジャンルの舞踊に挑み、独自の世界を築いてきた長嶺ヤス子。
「炎の踊り」「一期一会の踊り」「ジプシーを超えたジプシー」などと評されてきた彼女が、“生”と“死”と”愛”の物語『双頭の鷲』に再び挑む!!

2005年12月に行われた公演のチラシです

 

J・コクトーの原作は、文字通りの“怨念の劇”であり、大雑把に言えば、愛のドラマです。しかし、死を目の前にした現実の男女は、決してこんな風にも感じもしないし考えもしない。
つまり、原作は、頭だけで組み立てた言葉の劇なのです。
今回の再演にあたって、王妃の側近のトニーを浮かび上がらせて、王妃とトニー、スタニスラスの“三角関係”を核として構成してみました。
死を望んではいるもののプライドが許さず、自殺の出来ない王妃が、刺客として送り込まれたスタニスラスとの愛の生活を、トニーに見せることによって、トニーの嫉妬を拡大させ、何れはどちらかが自分を殺すように仕向けたと解釈してみました。
 在り来たりの言い方をすれば『殺された国王に対しての、死をも乗り越えた愛』を表現してみたいと思っています。

・・・・・・長嶺ヤス子

<出演>

踊り……………長嶺 ヤス子
       アントニオ・デルガード
       ケヴィン・ゴードン
       ブライアン・ブルックス
       デリック・ハリス


唄………………チェリート
       クライド・ウイリアムス
ギター…………パコ・クルサード
       ジョアクイン・ブライト
       Ar. マーチン
ベース…………ロドニー・ドラマー
ドラムス………エンジェル
キーボード……栗本 修

<スタッフ>

脚   本■野火 晃
演出・振付■池田 瑞臣
美   術■松野 潤
照   明■(有)ライトオープン
音   響■新井 洋治
衣   装■中間 障
ヘアメイク■佐々木 純子
舞台 監督■小林 正昭
      大河原 修
写   真■関口 照生
      今井 一詞
制   作■(有)ドアーズ本舎
制作 協力■スタジオ・アルス・ノーヴァ
宣   伝■菊地 廣

 

 

 

<主な登場人物>

●王妃 31歳
10年前、新婚早々の夫(国王=当時23才)が暗殺されて以来、ずっと喪に服している。政務は一切顧みず、姑の皇太后に委せっきりで(自身は新しい城築造などで国費を浪費)居城を転々としている。人前では、黒いベールをとらない。
●トニー 30歳
王妃の側近の黒人聾唖者。影のように王妃の身辺に侍る。
●スタニスラス 別名アズラエル(死の天使)23歳
無政府主義の詩人。王妃暗殺者として登場。
●フェーン 伯爵、警察長官。46歳
王妃と対立する皇太后の懐刀。陰謀家。
●ほか、数人

※演者は長嶺ヤス子を中心に、スペイン人フラメンコ・ダンサー1人とモダン・バレエ系黒人ダンサー3人。
※ミュージシャンは日本人キーボードとフラメンコギター1人、カンテ(フラメンコの唄い手)1人と、5人のアメリカ人ソウルバンドの豪華編成です。

<人物相互の関係

王妃は、王の死後も、ずっと深く夫を愛し続けているが、心の時間は、10年前から止まったままである。
一方、彼女の熟れた肉体は、側近(従僕)トニーによって、秘かに満たされている。但し(レディ・チャタレイの場合と異なり)肉体の愛が、そのまま全人格的な愛とはならず、精神の飢えが、それによって満たされることもない。
トニーとの“影”の生活では、黒いベールを王妃ははずす。
スタニスラスは、10年前の王妃の夫(暗殺された時点での国王)と年齢も同じ。
しかも、その容貌は、おそろしいほどに、瓜二つ。彼はその夜、王妃暗殺を企てた犯人として警察に追われ、わざと、捕り逃がされた形で、傷は負いながらも、王妃の居室に転げ込む。
トニー。王妃の存在自体が、生甲斐のすべて。王妃の“影”として仕える境涯に、この上ない歓びを見いだして生きてきた。
ところへ、スタニスラスの出現。烈しい嫉妬が、その心に噴き上げる。
フェーン。王妃がいなくなれば、王国は名実ともに、皇太后の天下となる。
だから、暗殺者をわざと捕り逃がし、王妃の居城へと追いやった。しかし、暗殺者が、暗殺の意志を失い、却って逆に王妃を本来の王妃として蘇らせるのに“役立った”と悟ると、今度は、スタニスラスを捕らえようと手配する。

<梗概>

第一景■
10年前の回想場面から始まる。
正装の若い夫の国王と、白い花嫁衣装の王妃、慶びの宴。花束を捧げ持って、ニコヤカに近づいて来た男。花束にかくされていた短剣。国王の死!
一転。黒衣に変わった王妃。心の荒野を象徴する舞台上を放浪する、孤独なステップ。いつしか、トニーが寄添っている。
第二景■
王妃の居間。亡夫の命日。
正面に亡き国王の大きな写真。食卓の支度が整うと、王妃はトニーをも退け、喪われた時を超えて、ただ一人、生ける人に対するように写真に向かい、話し掛けながら、盃をあげる。
雷鳴。遠く、近く。人々のただならぬ叫び声。銃声。嵐をはらむ沈黙。
突然、居室の扉が開き、稲妻と雨滴とともに、スタニスラスが、なだれ込んでくる。膝に傷を負い、疲れ切っている。
王妃が驚きの声を挙げ、写真とスタニスラスを、何度となく見比べる。
傷の手当て。新たな暗殺者・スタニスラスの肉体を“借りて”甦った、この不吉な“復活”を目のあたりにしたことから、王妃もまた、長い喪失の時間から再生する。スタニスラスは、亡くなった最愛の夫(国王)の年齢と同じ。
気配を察して、トニーが入ってくるが、王妃は出ていくように命ずる。
次いで、フェーン。危険な無政府主義者がこの城のどこかに逃げ込んだかも知れないと、王妃に告げる。王妃がスタニスラスを隠したこともちゃんと解っている。“先刻承知の上だ”といった顔つきで部屋中を見回し、王妃に一礼して出ていく。
第三景■
王妃とスタニスラス。
滅びの宿命を負った不可抗的な“愛”が二人の間に芽生え、育ちつつあった。
スタニスラスは、殺すはずの王妃を愛してしまい、そこに、自らの生命を賭ける。
王妃は、そうしたスタニスラスの出現によって、それまでの形骸だけの王妃の現実から解放されて、一個の女となる。女に戻されたことで、今度は逆に、本物の王妃としての自覚と自負を取り戻す。
王妃としての政務を行い、責任を果たすために、首都の王城に帰る決意を固める。もう、ベールは付けていない。
第四景■
王妃の不在を確かめ、フェーンがスタニスラスに近づく。
「あなたを逮捕する準備はできている。覚悟したほうがよい。」
入れかわってトニー。スタニスラスに激しい嫉妬をこめて、カプセル入りの遅効性“毒薬”をそっと手渡す。
スタニスラスには、解っていた。これ以上、王妃と一緒にはいられないこと、が。首都に戻る王妃に着いて行けば、彼女を賤しめることになり、政敵たちの罠にはまる。
“愛のために、死ぬしかない!”
第五景■
乗馬服姿で戻って来た王妃は、スタニスラスが、服毒したことに気付き、語気鋭く面罵する。
「卑怯者。あなたとの愛など、私のお芝居だった。それを真に受けて死んでいくなんて、意気地なしの卑怯者。」
階段を駆けのぼり、去っていこうとする王妃。死に際の最後の力を振り絞って追い縋り、その背中に短刀を力一杯突き立てるスタニスラス。
逆さまに階段から落下して絶命するスタニスラスを振り返って、王妃は呟く。
「あなたを愛しているのよ。殺して欲しいから、わざとあなたを怒らせるようなことを言ったのよ。」
崩れ折れ、倒れ伏す王妃のそばに駆け付けながらも、なす術もなく、呆然と佇むトニー。

双頭の鷲。暗殺者と王妃。一方の頭が切られたら、鷲は死ぬ!

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