佐々木梅治 芝居・読み語り

「父と暮せば」

 
2004年10月14日〜17日、アイピット目白でのチラシ

●梗概
1948年。原爆投下から3年後の広島の夏。爆心地に近い焼け跡の家に、図書館勤めの美津江はひとりで住んでいる。家で待っているのは父親だ。しかし父は3年前の原爆で亡くなっている。
ここに現われた父親の幽霊が、実は美津江自身の心が生み出した幻影であることは、美津江本人も自覚しているから、父がひょっこり現れても少しも慌てない。
父娘ふたりきりの家の中で、美津江は父の存在をごく自然に受け入れる。やがてふたりの会話は、美津江が図書館で出会った木下という青年の話題になる。木下は美津江に好意を持ち、美津江も彼に対して好意を持っている。父は美津江の気持ちを察して木下青年との交際を勧める。美津江はその話題になった途端にさっと顔を曇らせて厳しい表情を見せる。
原爆投下で親しい人たちをすべて失ったあと、死んでいった人たちに申し訳なくて、生き残った自分の身の上が後ろめたくて、一切の幸せと無縁に生きていこうと思い詰めている美津江。
「うちは幸せになってはいけんのじゃ」
と美津江は言う。
しかし23歳の乙女心は、ひとりの青年に出会うことで揺れ動く。
「わたしも幸せになりたい」
「本当は幸せになりたいんだ!」
でもそれを声に出せず、彼女はそのささやかな願いを胸の中で押しつぶす。その結果生み出されたのが、娘の幸せを切実に願い、恋の後押しをしようとする、亡き父の姿をかりたもう一人の美津江である。・・・・
木下青年が収集している原爆資料を美津江が預かることになり、恋の成就も間近かと思った父に、美津江は家を出ることを告げる。
「うちが生きのこったんが不自然なんじゃ」
美津江の心の奥で幸せをさけている本当の訳は、家の下敷きになっている父を見捨てて逃げざるを得なかった父への懺悔である事を父は知らされる。
「うち、おとったんと死なにゃならんかったんじゃ」
と美津江心の最深部に秘めていたものが吐露される。
それでも、竹造のことばで、これから自分が生きていくための意味を認識させられ、美津江は生きることに、前向きに向かっていく姿勢を取り戻す。

あよなむごい別れがまこと何万もあったちゅうことを覚えてもらうために
生かされとるんじゃ
おまいの勤めとる図書館もそよなことを伝えるところじゃないんか・・・
人間のかなしかったこと
たのしかったこと
それを伝えるんが
おまいの仕事じゃろうが
そいがおまいに分からんようなら・・・
ほかにだれかを代わりに出してくれや

佐々木梅治プロフィール

1973年、劇団民藝入団。民謡からシャンソン、茶道、狂言、クラシックバレエまで感心が高く、古典劇でも現代劇でも、幅広い役を演じている。また、宇野重吉一座の九州公演中、宇野重吉の代役で14回「三年寝太郎」を務める。
近年では、「夜明け前」「子午線の祀り」「山神さまのおくりもの」(わらび座公演)などに出演。その他、声優として「ゴットファーザー」「野望の階段」「キャプテンクック」「恐怖の報酬」「相続人」「JSA」「草ぶきの学校」「トイストーリー・2」「バイレーツ・オブ・カリビアン」など、数々の洋画に出演。役柄によって、多才な声を聞かせている。

2003年より、井上ひさし作「父と暮せば」を芝居・読み語りとしてスタート。ご要望があれば、全国どこへでも出かけて公演している。

 

【舞台歴】
1973年  F・デュレンマット作「プレイ・ストリンドベリ」(ゴング)
1974年  秋元松代 作「きぬという道連れ」(踊り手)
     黒井干次 作「ゼロ工場より」(少年工)
     秋浜悟史 作「しらけおばけ」(善吾)
1975年 矢田喜美雄 作「謀殺−下山事件」(秋谷教授)
     土屋 清 作「河」(見田青年)
     大橋喜一 作「狂騒昭和維新」(栗原中尉)
1976年  矢田喜美雄 作「FS6工作」(大滝教授)
     秋元松代 作「七人みさき」(孝之助)
1977年  V・デルマ一 作「わが家は楽園」(ビル)
1978年  E・フィリッポ 作「おおわが町」(医者)
1979年  庄野英二 作「星の牧場」(トロンボーン)
1980年  島崎藤村 作「夜明け前−第1部」(長州征伐の侍・木曽節)
           「夜明け前−第2部」(山林取締り役人)
1982年  吉永仁郎 作「すててこ てこ てこ」(牛鍋屋の客)
1983年  L・ヘルマン 作「わたしは生きたい」(デイーヴイッド)
1984年  久保 栄 作「林檎園日記」(今朝吉)
     吉永仁郎 作「すててこ てこ てこ」再演
1985年  E・ベントリー 作「ハリウッドの反逆」(調査官)
1986年  木下順二 作「おんによろ盛衰記」(村人2) 「三年寝太郎」(百姓2)
     ※宇野重吉一座九州公演中、病気の宇野の代役で、14回寝太郎を演ずる。
1988年  さとうあきら 作「ベッカンコおに」(コロス)
     木下順二 作「おんにょろ盛衰記」再演
     ブレヒト 作「第二次大戦のシュヴェイク」(ヒムラー、背中の曲った男)
1989年  真舶 豊 作「鼬」(喜平)
1990年  大橋喜一 作「月に妄想」(主役−作家)
     木下順二 作「子午線の祀り」第四次公演(佐藤四郎兵衛忠信)
     M・ゴーリキー 作「どん底」(アリョーシカ)
1991年  高田 保 作「大桜剣劇団」(桜木)
1992年  木下順二 作「子午線の祀り」第五次公演(佐藤四郎兵衛忠信)
     久保 栄 作「吉野の盗賊」(伊賀の新吾)
1993年  村山知義 作「終末の刻」(有家久意)
1994年  庄野英二 作「星の牧場」(イシザワ・モミイチ)
1995年  庄野英二 作「星の牧場」(イシザワ・モミイチ)
1996年  佐藤五月 作「帯に短かし」(木村)
     山本有三 作「波のままにお吉」(伝三郎)
1997年  島崎藤村 作「夜明け前」(浅草景蔵・幕切れの正調木曽節のソロ)
1998年  ア−サ−ミラ− 作「るつぼ」(チーヴァ)
1999年  木下順二 作「子午線の祀り」(佐藤四郎兵衛忠信)
     菊池 准 作「山神さまのおくりもの」(繁蔵)わらび座公演
2000年  ダグ・ルーシー 作「聖女グレース」(ギャヴァン)
     鬼頭仙次 作「私は春がきらいです」
2001年  木庭久美子 作「サヨナラパーティー」
     逢坂 勉 作「喜劇サナダ」
2002年  逢坂 勉 作「喜劇サナダ」
     菊池 准 作「山神さまのおくりもの」(繁蔵)わらび座全国公演
2003年  井上ひさし 作「父と暮せば」を芝居・読み語りとしてスタート。