私にとって1年の中でこの季節が一番心忙しい季節である。わが劇団スタジオ鏡の4月公演(4月12、13、14日)を終え、大阪府高槻市の主婦達でつくる劇団「うらら」から依頼された7月公演の脚本を書き、9月に控える鏡の公演の台本を書く…。
春をたたえる人は多いが、私は四季の中で春が一番苦手である。なぜか、この生暖かい風が私を無気力にさせるからである。
とはいえ、ボーっとしている訳にはいかない。なにしろ忙しいのである。怠惰へと向かう脳細胞を刺激するため、週に3回プールに行き、週に2回は早朝ゴルフに向かう。
快調!快調!…すこぶる快調!
そんな、ある朝。エライことになった。
目覚めた時、寝返りが打てない。
少し動いただけでせき髄に激痛が走る。
首は前後左右全く動かない…。
それでもなんとか、枕元の電話を取り上げ119番した。
稽古場のあるビルの3階が自宅だ。救急隊の大男3人が私をおんぶしてくれようとしたが、あまりの痛さに「なんか、自分で歩きます…」。杖を頼りに階段を少しずつ降りた…。なんで、こんなことになったのか…。
そうだ…。
前日のことを思い出した。
4月22日だ。その日も、朝5時に起き、ゴルフをハーフラウンド回り、午前11時に劇団に帰り、コインランドリーで洗った洗濯物を屋上に干した。
そして、ひと寝入りしたあと、夕方、洗濯物を取り入れたもののまだ乾いていなかったので、天井近くに渡したパイプに吊るした。
その時、なんの弾みか足を滑らせ、仰向けにひっくり返った。その弾みで、そこに置いていた角材に倒れこみ、わが頭でその角材を真っ二つに折ってしまったのだ。
「バキッ」
それは角材の折れた音だ。
こちらは、外傷もなかった。だから、夕方からの稽古もこなし、いつものように一杯引っ掛けて寝たのだ。
しかし、あの「バキッ」が、古傷に響いたらしい。
ようやくのことで、外科に運び込まれ、いろいろな角度からレントゲン写真をとったが、幸い、骨に異常はなかった。しかし、2週間が経つが、やはり首は廻らない。寝ようとしたり、立とうとしたり、姿勢を変えると「チクリ」と警報を鳴らす。
なんで、こんなことになったのか。
私は厳しい冬が好きで、子どもの頃から、しもやけやあかぎれになったことがない。
夏の暑さを苦にしたことがなく、真夏の沖縄公演を10年も続けたのである。
それが、春は無気力だ、怠惰だと理由をつけて、うろうろ、ふらふら出かけてしまう。そんな私を、天上の神が「真面目にいい脚本を書きたまえ」と、足払いをしたのかもしれない。
…う〜む。
そんな悪さをする神といえば、人間臭くやんちゃな最高神、私の大好きなジュピテルか…。
はたまた、サターンの業か?
できれば芸術の神、アポロに愛されたいのだが…。
しかし、私を離さぬのは、多分、酒神・バッカスなのだろう。
嗚呼!「首が回らぬ」のは三文役者の世のならい、なんの臆することのあるべきか。
今日も、杖をたよりに1日がかり…。稽古場と居室を往復しながら、脚本を書いております。