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●こちらは「文芸漫談」の過去の公演リストです

Vol.24●2012年12月14日(金)小島信夫『アメリカン・スクール』

料 金■2,500円(全席自由)
会 場■北沢タウンホール(TEL.03-5478-8006)
    世田谷区北沢2-8-18

作品詳細

『アメリカン・スクール』 梗概

アメリカン・スクールの見学に訪れた日本人英語教師たちの不条理で滑稽な体験を通して、終戦後の日米関係を鋭利に諷刺する、芥川賞受賞の表題作。

「アメリカン・スクール」へ見学に行くために、県庁のまえで待たされる日本の英語教師たち。
弁当持参、服装は清潔にとのお達しにしたがって集合した彼らは、ここでは生徒である。
横柄な役人に引率され、軍属の施設のなかにあるスクールをめざして片道六キロの道のりをゆく。歩行者用のものでないその舗装道路の片側に列をなす彼らの横を、進駐軍の車で何台も走りすぎる。
唯一の女性の参加者であるミチ子に話しかける兵隊たち。彼女に手渡されるチーズやチョコレート。  
誰もがお腹をすかせ、「すべての好意が食糧の供給であらわされる時期だった」から、ミチ子からチーズを分けてもらった伊佐は悪い気がしない。しかし、ミチ子が達者な英語で兵隊と話をしているあいだ、彼はそのすぐかたわらで、話が自分に振られるのではないかと気が気ではないのは、彼が英語を話せない英語教師だからである。
「英語を話したことは一度もなかったし、自分が英語を教えている時、会話が出てくるとくすぐったいような恥ずかしいような気持ちになった」という伊佐は、英語を担当しているというだけで通訳にかりだされた経験に懲りていた。「相手の分からぬ英語を聞き取ったり、自分が話すことを思うと、脚がすく」み、耐えかねて、通訳を担当することになっている黒人の運転するジープから飛び降りたほどだった。「彼はあの時ほんとに衝動的に黒人を殺しかねなかった。あれがあのまま二日と続いたら、彼は逃げ出すならともかく、ほんとに相手を殺していただろう。」
一方、巧みに英語を操り、見学者一行の代表のように振る舞う男・山田は、萎縮する伊佐を軽蔑し陥れようとする。
「(日本人が外人みたいに英語を話すなんて、バカな。外人みたいに話せば外人になってしまう。そんな恥ずかしいことが……)
彼は山田が会話する時の身ぶりを思い出していたのだ。(完全な外人の調子で話すのは恥だ。不完全な調子で話すのも恥だ)
自分が不完全な調子で話しをさせられる立場になったら……
彼はグッド・モーニング、エブリボディと、生徒に向かって思い切って二、三回は授業の初めに云ったこともあった。血がすーと登って谷底へ落ちて行くような気がしたのだ。
(おれが別の人間になってしまう、おれはそれだけはいやだ!)」
英語を話すことへの伊佐のこの激しい拒絶は、敗戦という経験がもたらしたものである。また、伊佐に山田が抱く悪意やアメリカに対する媚びと卑屈、山田以上に英語の会話能力のあるミチ子の「たしかに英語で話す時にはもう自分ではなくなる。そして外国語で話した喜びと昂奮が支配してしまう。」という警戒心も同じであろう。
それにしても、英語を話したら「別の人間になってしまう」という伊佐の、まぎれもない「おれ」としての自らが拠って立つ足場の、なんとあやふやなことか。
そして、彼にふりかかるハプニング・・・・・

小島信夫 <1915年〜2006年> 小説家、翻訳家

岐阜県生れ。東京大学英文学科卒。
1954(昭和29)年「アメリカン・スクール」で芥川賞、1965年『抱擁家族』で谷崎潤一郎賞。
1972年『私の作家評伝』で芸術選奨文部大臣賞。
1981年『私の作家遍歴』で日本文学大賞。
1982年『別れる理由』で野間文芸賞。
1997(平成9)年『うるわしき日々』で読売文学賞。
その他の著書に『各務原・名古屋・国立』、保坂和志との共著『小説修行』ほか多数。
2006年遺作『残光』を発表後、肺炎のため死去。

出演者プロフィール

いとうせいこう

1961年、東京生まれ。
早稲田大学法学部卒業。 作家・クリエーター。
『ノーライフキング』で小説家としてデビュー。
その後『ワールズ・エンド・ガーデン』『解体屋外伝』『豊かに実る灰』『波の上の甲虫』などを執筆。
2013年『想像ラジオ』で第35回野間文芸新人賞受賞。
最新作『鼻に挟み撃ち』(2013年すばる12月号)で2度目の芥川賞候補にノミネート。
主なエッセイ集として『見仏記』(共作/みうらじゅん)『ボタニカル・ライフ』などの他、舞台・音楽・テレビなどで活躍。
公式HP=http://www.froggy.co.jp/seiko/


奥泉 光

1956年、山形生まれ。
国際基督教大学大学院修了。小説家・近畿大学教授。
主な小説に『ノヴァーリスの引用』『バナールな現象』『「吾輩は猫である」殺人事件』『プラトン学園』『グランド・ミステリー』『鳥類学者のファンタジア』『浪漫的な行軍の記録』『新・地底旅行』『神器—軍艦「橿原」殺人事件』などがある。 1993年『石の来歴』で第110回芥川賞受賞。
2009年『神器—軍艦「橿原」殺人事件』で第62回野間文芸賞を授賞。
2014年『東京自叙伝』で谷崎潤一郎賞を授賞。
公式HP=http://www.okuizumi.com/