●こちらは「文芸漫談」の過去の公演リストです
Vol.04●2007年2月24日(土)〜世田谷スペシャル〜 大岡昇平『野火』
料 金■2,000円(全席自由)
会 場■北沢タウンホール(03-5478-8006)
世田谷区北沢2-8-18
作品詳細
『野火』梗概
太平洋戦争末期、敗北が決定的となったフィリッピン戦線で結核に冒され、わずか数本の芋を渡されて本隊を追放された田村一等兵。 野火の燃えひろがる原野を彷徨う田村は、極度の飢えに襲われ、自分の血を吸った蛭まで食べたあげく、友軍の屍体に目を向ける……。
平凡な一人の中年男の異常な戦争体験をもとにして、彼がなぜ人肉嗜食に踏み切れなかったかをたどる戦争文学の代表的名作。
主人公田村は肺病のために部隊を追われ、野戦病院からは食糧不足のために入院を拒否される。現地のフィリピン人は既に日本軍を抗戦相手と見なす。
この状況下、米軍の砲撃によって陣地は崩壊し、全ての他者から排せられた田村は熱帯の山野へと飢えの迷走を始める。
律しがたい生への執着と絶対的な孤独の中で、田村にはかつて棄てた神への関心が再び芽生える。しかし彼の目の当たりにする、自己の孤独、殺人、人肉食への欲求、そして同胞を狩って生き延びようとするかつての戦友達という現実は、ことごとく彼の望みを絶ち切る。
ついに「この世は神の怒りの跡にすぎない」と断じることに追い込まれた田村は「狂人」と化していく・・・・・。
大岡昇平<1909年〜1988年>
東京生まれ。
鎌倉に一時期住んでいた時期を除けば、東京で最晩年まで暮らす。
幼少年期はまだ「郊外」だったころの渋谷駅周辺で過ごす。このころの思い出は、自伝的長篇である『幼年』と『少年』に詳細に描かれている。
旧制成城高校時代は小林秀雄や中原中也とさかんに交流する。この時期に大岡の文学的感受性の基礎が築かれたといってもいいだろう。彼は政治的には正反対の立場にある小林や、私生活で多大な迷惑をこうむった中原に対する畏敬の念を、生涯にわたって失うことがなかった。
高校卒業後は京都大学文学部仏文科に進学し、スタンダールを専攻、翻訳も手掛ける。
大学卒業後は一般企業に就職し、一度は文学の世界から遠ざかる。
しかし太平洋戦争末期に応召されてフィリピンに配属される。このときの体験をもとにした『俘虜記』『野火』が評価され、作家としての地位を確立する。
この傾向の作品の集大成ともいえる大長篇『レイテ戦記』を出版。この業績を評価されて、1971年に芸術院会員に推薦されるが辞退する。
以上のエピソードからも判るように、狭い意味での「左翼」とは一線を劃していたものの、つねに反体制・反戦・反核の立場から発言し続けた。
1971年に『レイテ戦記』の完結を俟って芸術院会員に推薦されるが、「戦争中に捕虜になったという過去があるので、天皇陛下に頭を下げたり、国から年金をもらう気にはなれない」と発言、大きな波紋を起こす。だが、たとえば保守派とされる福田恆存とは深い交友を続けていた。
推理小説の熱心なファンで、みずからも何作か推理小説を発表する。
なかでも『事件』はTVドラマや映画になったほど人気を呼び、1978年度の日本推理作家協会賞を受賞した。このときは芸術院会員に推薦されたときとは打って変わって、素直に喜んだという。
また最晩年に書かれた日記風のエッセイ『成城だより』(1979年11月から1985年12月まで)はロックや少女漫画といったサブカルチャーから現代数学、そして政治問題や社会問題について積極的に発言し、周囲を驚嘆させる。
昭和天皇が亡くなるほぼ2週間前の1988年12月25日に逝去。
出演者プロフィール
いとうせいこう
1961年、東京生まれ。
早稲田大学法学部卒業。 作家・クリエーター。
『ノーライフキング』で小説家としてデビュー。
その後『ワールズ・エンド・ガーデン』『解体屋外伝』『豊かに実る灰』『波の上の甲虫』などを執筆。
2013年『想像ラジオ』で第35回野間文芸新人賞受賞。
最新作『鼻に挟み撃ち』(2013年すばる12月号)で2度目の芥川賞候補にノミネート。
主なエッセイ集として『見仏記』(共作/みうらじゅん)『ボタニカル・ライフ』などの他、舞台・音楽・テレビなどで活躍。
公式HP=http://www.froggy.co.jp/seiko/
奥泉 光
1956年、山形生まれ。
国際基督教大学大学院修了。小説家・近畿大学教授。
主な小説に『ノヴァーリスの引用』『バナールな現象』『「吾輩は猫である」殺人事件』『プラトン学園』『グランド・ミステリー』『鳥類学者のファンタジア』『浪漫的な行軍の記録』『新・地底旅行』『神器—軍艦「橿原」殺人事件』などがある。 1993年『石の来歴』で第110回芥川賞受賞。
2009年『神器—軍艦「橿原」殺人事件』で第62回野間文芸賞を授賞。
2014年『東京自叙伝』で谷崎潤一郎賞を授賞。
公式HP=http://www.okuizumi.com/