●解説
フランツ・カフカの短編集、「アカデミーへのある報告書」をもとに、モノローグドラマとして脚色、構成をしたおよそ一時間の作品です。
人間の言葉と知識を拾得した一頭の猿は、アカデミー会員を前に、ゆっくりと語り始める。
アカデミー会員の皆様
私がかつて猿であった時代の生活についてご報告申し上げます
彼は、アフリカで、ハーゲンベック商会という狩猟探検隊に捕らわれ、船の中甲板に置かれた檻に閉じ込められる。彼はもとの「自由」な生活に戻ろうと必死になって「出口」を探し、逃げ出そうともがき苦しむ。が、次第にそれが無駄な努力であることを知る。彼が抱いていた「自由」はもはや望みを絶たれてしまった。
ある時、一人の船員が彼に人間の言葉を教え込もうとする。彼は考えた、ここから出るためにはどうしても「出口」を見つけなければならない。そうだ、その「出口」とは人間と同じようになって、人間の仲間入りをすることこそ、今の自分にとっての「出口」なのだ、と考えるようになる。
そして彼は、人間と同じようになるためにあらゆる努力を続ける。
ある日、船の中でパーティーがあり、自分の檻の前に、偶然、置きっ放しになっていた酒の瓶を、人が見ていない隙に掴み取り、丸ごと一本のみ干してしまう。そして酔いも手伝って彼はついに人間の言葉を発してしまう。
やがて、船がハンブルグの港に到着した時、彼の前に二つの道が用意されていた。一つは動物園、もう一つは演芸場だった。
彼は自分に言い聞かせた、『演芸場を目指して全力を振り絞れ、それこそが「出口」だ、動物園は新しい檻にすぎない』
こうして彼は、自分の身をムチの監視のもとに置き、自分の中から猿の本性をたたき出すことに成功する。
そして、今や文明世界の全ての一流演芸場において、芸人として活躍する事になる。
しかし、彼は言う。
私が人間の真似をしたのは
人間に特別な魅力を感じたわけではないのです。
私が今まで生きてきた「自由」と
人間が考えている「自由」とは全く違うんです。
ですから私は「自由」を求めてはおりません。
私はただ「出口」が欲しかっただけです。
ただそれだけの事です。
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