役者の味の面白さ・・・

 「ほんまもん」のドラマもだんだん佳境に入ってきた。料理もさることながら、役者のもろもろの姿の面白さが見えてきた。なんといってもリハーサル風景が楽しい。

NHKテレビ「ほんまもん」制作会見
根津甚八、池脇千鶴、風吹ジュン
(読売新聞社撮影)

 特に女優さんは色とりどりに輝き方が違うので面白い。女優Nサンは、リハーサル室に入ってくるとあたり一面パッと花が咲いたように明るくなる。笑みを含んだ目でまわりを見回す。なのに気取った様子はまったくない。それに本読みの段階でキッチリ台詞(せりふ)が入っていて見事だ。自分の出番でないときも、それこそホンマモンの関西弁で気軽に歓談してくる。心地よい女優サンである。

 これとは対照的なのが女優A嬢である。本読みの時など、どこにいるのかわからないほど寡黙で静かだ。自分の存在自体消してしまいたいのではないかと思われるくらいである。が、いざ本番となると、水を得た魚のようにイキイキと、彼女の内面が泳ぎ出すのである。あの少々コミックでコケティッシュな魅力はどこに隠されていたのであろうか。

 また、幾つになっても可憐(かれん)な女優H嬢は、日常の素顔そのまんまの女性。何の気取りもてらいもなく、素直を絵に書いたような芝居をする女優である。それに芝居が丁寧で、清潔で、なんとも気持ちがいい。

 ああ、忘れてはならない人を忘れていた。我らが演歌の女王、K嬢である。多忙なのであろう、本読み、立ち稽古(けいこ)の日は現れないことがある。方言指導の女優さんが代役を務める。長い台詞を機関銃のような速さでまくし立てるシーン。「こんな長い台詞、本番だけでホンマにできるの?」私は本気で心配した。翌日、本番の日、太陽のような明るい顔で現れた我らが女王は、まさしく立て板に水であった。さすがは座長! 恐れ入りました。

NHKテレビ「ほんまもん」のロケーションから
(読売新聞社撮影)

 最後に主役のT嬢。彼女は小柄で華奢(きゃしゃ)なように見えて、タフでしっかりしたお嬢さんである。「若いのに芝居がうまいなあ、あんなに物怖(お)じせずに芝居が出来るとはどういうことなのかなぁ・・・」将来が楽しみです。

 あぁ、これだけはお話しておきたい俳優さんがいた。ベテラン俳優Sさんだ。あの重厚な演技の裏に隠し技があるとは誰も気づかない。リハーサルのちょっとした間、寸暇を惜しんで駄洒落(だじゃれ)を言ったり、おどけてその場を和ませる得意技をお持ちだ。

 撮影現場はともすれば、極度に緊張したり、ハードスケジュールからくる疲れで、とげとげしい雰囲気になる時がある。そんな時、間髪を入れずに、軽やかに、何気なく彼の裏技が出るのである。なんともチャーミングで微笑(ほほえ)ましい!

 私の出番は11週で消えたと思っていたが、まだ出てくるそうである。それも80歳のおじいさんになっているらしい・・・ありがたいことである。


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